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2012年4月から新潟大学大学院に共生経済学研究センターを立ち上げました!グローバルな視野を踏まえながら、地域目線の研究活動を企画していきます。今年度は新潟市における公契約条例制定の可能性について検討中です。

2012年8月23日木曜日

TPPと投資協定:大企業の、大企業による、大企業のための「お任せ民主主義」

アメリカ合州国の独立系メディアの報道番組Democracy Now!――わかりやすい日本語版サイトもあるのは、ご存知の方も多いかもしれません。数日前、同国の政策NGOであるPublic Citizenの著名弁護士、ロリ・ウォラック(Lori Wallach)さんが出演していました(http://democracynow.jp/video/20120614-2)。その内容を僕なりに一言でいい表せば、今回のタイトルのようになります。

TPPに関心のある人もない人も、ウォラックさんの今回のお話は必見といっていいでしょう。いま極秘に行われているTPP交渉で議論されている投資協定案がそのまま実施されてしまうと、多国籍大企業にとって都合の悪い進出先国の制度はすべて訴訟の対象となり、世界銀行などに設けられた(ニセ)国際仲裁法廷で、これまた企業側に都合よく審判が下されることになる、というのです。前からこの種の投資協定が論議されているのではないかと懸念されていたのですが、TPP交渉の閉鎖性からなかなか本当のことがわからずにいました。しかし最近になってついに情報がリークされ、「やはりそうか!」ということで、いまPublic Citizenを中心に反対運動が起こっているところです。

実はこの問題はTPPに限ったことではなく、北米自由貿易協定(NAFTA)などこれまでのFTAに含まれる多国間投資協定や、独立の2国間投資協定でもみられたことなのですが、興味深いことに、一方的な「悪役」とみられがちなアメリカ政府自身もカナダの企業から訴訟を起こされています。もちろん逆もまた同様、Ethyl社やS.D.Myers社などアメリカの企業も負けてはおらず、カナダ政府から巨額の賠償金をせしめています。でも、特筆に値する悪質さでたぶん一番よく知られているのは、メキシコのある自治体に対するアメリカのMetalclad社の訴訟でしょうか。この自治体は同社の有毒廃棄物処理施設が地域の水資源を汚染したことを理由に閉鎖を要求したのですが、Metalcladはこれを不服として訴訟を起こし、結局1,560万ドルもの賠償金を得ています。逆ギレの居直り強盗ビジネスとでもいったらいいでしょう。

似たような結果を招きそうな投資協定が、いままさにTPP交渉の過程で極秘に議論されている――これは、このブログで前から批判してきている「お任せ民主主義」の、究極の姿だと思います。交渉に関わっている国々では、ブルネイやベトナムを除けば、ひとまず民主的な手続きを経て選ばれた政治家たちが政権についていますが、その先は結構好き勝手なことをやっています。特にこのTPP交渉は、アメリカ自体においてさえ一般市民にはほとんど情報が伝えられていません。ところが利害関係をもつ多国籍大企業やその代理人たちは、いつのまにか通商代表部(USTR)を通じて実際の交渉に加わっているわけです。つまり、大半の市民にとっては全権委任、白紙委任されてしまったまま、重要な物事が一部の特権層によって勝手に決められてしまっている…これはやはり「お任せ民主主義」というほかありません。

そんなことを考えていたら、ちょうど折よく、アルゼンチンの新聞でも関連した記事が掲載されているのに気がつきました(http://www.pagina12.com.ar/diario/economia/2-201463-2012-08-21.html)。投資協定の問題点を、国税庁の若き女性職員が論文にまとめて奨学金を得たという、おめでたいお話です。その論文の視点と論調は先ほど書いたこととおおむね同じ。いわく、一般に昨今の投資協定は、多国籍企業が進出先で被った(とされる)不利益を、その国の法廷ではなく、世界銀行の国際仲裁法廷に直接持ち込めるようにするもの。主権侵害もさることながら、企業に有利な判決が多く、たとえ和解しても結局は巨額の賠償金を市民の血税で支払うことになる、というわけです。

1990年代、アルゼンチンでもこの種の投資協定が2国間でいくつか結ばれています。その結果、フランスのテレコムなど、民営化された企業に投資した外国企業は、ドル建てで安定した公共料金収入を確保、また料金を裁量で変更したり、利益を無制限に本社送金したりもできました。おもしろいことに、当時の市場原理主義の政策があまりに現実離れしていて、長くはもたないことを、こうした企業もよくわかっていたので、そのためにも協定で利権を守りたかったらしいのです。そしていかにもありがちなことですが、世界銀行もこれをあと押し。投資協定の締結を融資の条件にしていたといいます。ちなみに奨学金を得たこの方は、近々、ニュー・ヨークの名門ニュー・スクール大学に赴き、ご自分の研究結果を発表することになるのだそう。なるほど。

それにしても、アルゼンチンでは最近「女子」の活躍が本当に目につきます。前にも書いたと思いますが、いまは大統領も中央銀行総裁(http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=R-kBwwRSFAA#!)もそう。アメリカ合州国でも、冒頭お出まし願ったウォラックさんは「女子」。そういえば、野田首相と直談判した首都圏反原発連合のミサオ・レッドウルフさんも!う~ん、「男子」もがんばらないと^^;