お知らせ

2012年4月から新潟大学大学院に共生経済学研究センターを立ち上げました!グローバルな視野を踏まえながら、地域目線の研究活動を企画していきます。今年度は新潟市における公契約条例制定の可能性について検討中です。

2012年9月12日水曜日

「太陽のマテ茶」秘話?

日本コカコーラがこの春に売り出した新製品「太陽のマテ茶」、もう試してみました?なかなかいけますよね。マテ茶は南米のパラグアイ、アルゼンチン、ブラジルでよく飲まれているもので、日本人は最初は「土臭ぁ~!なんだこれ!?」と感じるのですが、慣れると案外やみつきになる代物。本来は僕らと同じモンゴロイド系先住民のグアラニー族が薬用にしていたようですが、いまは銀をあしらった瓢箪(ひょうたん)製のおしゃれな容器とやはり銀の管ボンビージャで、支配者の白人たちも一緒になって老若男女「回し飲み」しています。ミネラルや食物繊維が豊富で、肉食の向こうの人たちには必需品です。日本でも最近は文字通り「肉食系」の人種が増えてきているので、まあ、せいぜい利用してみてください。
 
念のために断っておきますが、僕はコカコーラの回し者じゃあありませんよ(笑)。実際、マテ茶もいいですが、僕がアルゼンチンで暮らしていた時に愛飲していた飲み物にカチャマイというハーブ茶(http://cachamai.co.jp/?&)があり、個人的にはそちらの方がずっとお気に入りでした。安くておいしい肉(特にアサド・デ・ティーラのような安物が案外おいしい)をたらふく食べた後、これを飲むと適度な爽快感があってムイ・ブエノ。ただしマテ茶以上に食物繊維豊富なので(?)、調子に乗って飲みすぎるとおなかを壊しますから、ご用心を。
 
ところでマテ茶生産国のひとつ、アルゼンチンでは、ここ数ヶ月、このお茶の店頭価格が高騰しています(http://www.pagina12.com.ar/diario/economia/2-201668-2012-08-23.html)。日本の緑茶のように飲まれている庶民派消費財なので、社会問題になっています。その背景には、製茶会社(10社で8割のシェア)と流通資本(大規模スーパーの小売りシェアは1990年代に4割程度だったのが2003年現在では8割強に)の独占的な価格設定や投機的行動があるといわれているのですが、しかしよく考えてみると、そうした構造は前から多少ともあるわけなので、これが今回の価格高騰の主因なのかどうか、僕自身は実は疑っています。事実、問題はそもそも原料茶葉がキロ当たり90%も騰貴したところから始まっている、つまり製茶会社や流通資本が独占的な利益を上乗せする前の段階で生じているのです。
 
もう少し踏み込んで妄想を吐露すると、そういった従来からの構造に加えて、「太陽のマテ茶」製造のために原料茶の大量買い付けが行われたのではないか、そしてそれを機に原料茶葉の投機的売買に火がついたのではないか、と心配しているわけです。タイミングがピッタリ合っているので、あながちデタラメともいえないような気がしていますが、さて。ちなみに日本コカコーラのお客様相談室に電話して、原料茶の生産国を尋ねたところ「アルゼンチン、ブラジル、パラグアイが生産国ですが、価格や時期によって買い付け先を変えています。それ以上の詳しい情報はお出ししておりません」とのことでした。
 
話を戻すと、アルゼンチンのマテ茶産業の最底辺にあって見落とされがちなのは、緑の原料茶葉を収穫する労働者たちです。コリエンテス州やミスィオネス州など北部の暑い地域を中心に全国で1万3,000人~1万5,000人が働いているそうですが、そのうちなんと65%~70%(!)が社会保障でカバーされていない非正規労働者だといいます。仕事は過酷、低賃金で、ほとんど奴隷的なものらしく、茶葉の売値が90%急騰したというのに、最新の労使協定ではわずか17%の賃上げしか達成されていません。
 
マテ茶の生産農家や農園経営者が前近代的ともいえるような態度であることに加え、アルゼンチン農業労働者組合(UATRE)の幹部も彼らと一体となって現場の「奴隷」を搾取しているということです。労使協定に定められた基本最低賃金さえ支払われず、それに不平を言ったり、組合(長年、代表を選ぶ選挙が行われていない)の民主化を求めたりすれば、誘拐され、悪くすれば「行方不明者」にされてしまいます。そんな事態が過去繰り返し起こってきたのです(http://www.pagina12.com.ar/diario/economia/2-202824-2012-09-07.html)。


割と進歩的な政策を展開している現在の政権も含めて、歴代の政権のどれもがこの問題を放置してきました。悲惨としかいいようがありません。「太陽のマテ茶」の製造過程の末端に、このような共生に反する闇が潜んでいないのかどうか、これも気になるところです。杞憂であってくれればいいのですが。