お知らせ

2012年4月から新潟大学大学院に共生経済学研究センターを立ち上げました!グローバルな視野を踏まえながら、地域目線の研究活動を企画していきます。今年度は新潟市における公契約条例制定の可能性について検討中です。

2013年2月15日金曜日

ユーロ圏周辺諸国に関するナバーロ教授の見解(続報)

前回はユーロ圏周辺諸国経済についてのナバーロ教授の見方を紹介しましたが、その後新たに関連したブログ記事が公開されています("¿Salirse del Euro? El Caso de Grecia", Sistema Digital, 15 de febrero de 2013)。その要点は以下の通りです。

①いまジョンズ・ホプキンス大学で教えているところだが、アメリカ合州国にはちょうどいま、ギリシャの最大野党・急進左翼連合(Syriza)の若き党首アレクシス・ツィプラス氏も滞在中である。同党は勢力を増しており、今後の選挙で勝利を収める可能性がある。

②ツィプラス党首の講演を聞く機会があったが、ギリシャが直面する国内外の状況(富裕層が伝統的に牛耳る権力構造、それを背景とする巨額の脱税と財政基盤の弱さ、ドイツの銀行の利害を優先するEU委員会・ヨーロッパ中央銀行・IMF[トロイカ]の緊縮政策など)についての分析はおおむね適切であり、感銘を受けた。聴衆から「なぜあなたの党はギリシャがユーロ圏を離脱することを選択肢として考えないのか?」という重要な問いが投げかけられた。これに対する答えは「ギリシャ市民はユーロ圏からの離脱を承認しないだろう。いまそれを党の政策として掲げるのは誤りだ」という、賢明で納得のいくものだった。

③しかし同時に疑問は残る。経済政策研究所マーク・ワイスブロット氏もその場で述べていたことだが、彼の党が求める正当な政策(引用者注:たとえば緊縮政策の撤回)を「トロイカ」が受け入れるとは到底考えられない。とすれば、せめて駆け引きの戦術としてでもいいから、ユーロ圏からの離脱を示唆してもよいのではないだろうか。よくまことしやかに報道されているのとは正反対に、ドイツや「トロイカ」は、ギリシャがユーロ圏を離れることを望んでなどいないのだ。

④ワイスブロット氏は持論である「アルゼンチン・モデル」(引用者注:前回のブログ記事や拙著『99%のための経済学【教養編】』[新評論2012年]をご参照)の有効性を改めて強調した。同氏はまた、ギリシャはかつてのアルゼンチンよりも有利な条件にある(たとえば一人当たりGDPは3倍)、ユーロ圏を離脱して通貨を切り下げれば外需が増える、それに応じて資本流入も増える(アルゼンチンがIMFの指導を離れて変動相場制に移行した当時とは違い、いまは国際融資の可能性がより広く開かれている)、財政主権も回復されて経済政策の自由度が増す、とも述べた。

⑤「トロイカ」に対する交渉力が増すのは明らかなのに、ギリシャの野党勢力はなぜユーロ圏からの離脱を議論しないのか。これはワイスブロット氏の疑問だが、私自身も共有するものだ。状況はスペインでも同じであり、新たな選択肢を緊急に議論すべきである。メディアはよく、ユーロ圏から離脱すれば経済は混乱して破局的状態になるなどと恫喝するが、これまでの緊縮政策の結果、スペインの失業率は現在26.1%とギリシャの26.7%をほんのわずか下回るにすぎない。これ以上悪くなりようがないではないか。


以上です。前回の投稿記事でもふれておきましたが、ナバーロ教授が「アルゼンチン・モデル」にも理解があるのは、これでも明らかでしょう?ただし、ワイスブロットさんほどにはこだわってはおられないようですね。可能性は複数考えておき、あらゆる事情を総合的に判断して、最も適切な選択をすべきだ、ということのようです。

ちなみに「アルゼンチン・モデル」について一言注意しておくと、昨秋の学会報告(本ブログ記事ご参照)の際にも指摘したことなのですが、2002年の変動相場制への移行はかなり厳しい調整スタグフレーションを引き起こしており、市場原理主義体制(1990年代のカレンシー・ボード制をはじめとする急進的な経済自由化)の下でそれまでも高止まりしていた失業率は、瞬間的に一層高くなっています。非正規雇用率、貧困率、自殺率など、共生に反する社会指標の悪化もみられました。その後V字型の経済回復と社会指標の改善が進みますが、最悪の状態こそ抜け出したものの、まだ残る課題も多いのです。このこと自体は冷静に考慮しておく必要があると思います。

ただし、だからといって市場原理主義体制のままでいたとしたら、それこそいまのギリシャやスペインのような、近来稀にみる最悪の「反・共生経済社会」が持続していた可能性は十分にあります。「アルゼンチン・モデル」の経験を踏まえ、起こりうる調整スタグフレーションのショックを最小限に抑えるよう、万全な措置を施すべきでしょう。

スペインでもいま、賃貸アパートを追われた人が自殺するなど、社会問題は悪化の一途をたどっています。やはり、今まで以上に深く議論すべき時です。選択肢を賢く広くとり、交渉力を強化し、「トロイカ」やドイツ、そしていうまでもなくスペイン、ギリシャ自体の頑迷な政治経済権力の壁を、市民の手で突き崩さなければなりません。

ところで、本質的に同じことは、この極東の国についてもいえると思うのですが、いかがでしょうか。なにをどうすれば選択肢を広げ、交渉力を増すことになるのでしょうか。ぜひ考えてみてください。

それではまた。